希望の光景
― 北茨城・いわき地区研修の旅 ―
フィリピン・シリマン大学神学部
ジーン・クアナン・ナラム教授

私たちは笑顔で握手し日本式のお辞儀で歓迎されました。素晴らしかったです。日立教会の皆さまとは、お会いする前からずっと親しい知り合いだったように感じましたし、日本語はほとんどわからないはずなのに皆様のおもてなしの温かさはすぐに理解できました。日本食はどれも初めて食べるものでしたが大変おいしく、お腹いっぱいいただきました。また、かみね動物園の動物たちは、ほとんど今まで見たこともなかったのですが、楽しみリラックスすることができました。

日本式の旅館(月浜の湯)では、美味しい食事が盛られた日本の伝統的な宴席、温泉、浴衣などを準備してくださるなど、いずれも私の想像を超える特別なおもてなしでしたし、もちろんすべて初めての経験でした。旅館の方々の私たちへの温かい配慮やご親切も忘れることはできません。

しかし今日の立派な旅館の建物の背景には痛み、悲しみ、そして失ったものの物語があることも知りました。旅館の女将さんが地震と津波の破壊的な出来事の経験を聞かせてくださり、被災直後の挫折経験やその後の復興の物語など、信仰が試されたという貴重な証しにあずかる厳粛な時間でした。

震災直後から、友人や見ず知らずの方々の、あの津波にも勝って力強く押し寄せた支援の人々の物語がはじまり、希望の兆しが見え始めます。女将さんはこの痛みとの戦いにおいて神様の御力をあらためて感じることができた、とても厳しい中ではあっても、信じる者を苦難から解き放ってくださる神様の御力によって希望をいただいた、と言われたのです。

いわき市での津波による被災地の光景は心痛むものでした。このような光景*1はフィリピンでは見慣れたものです。しかし、それぞれの場所にはそれぞれの神聖な物語があります。災害に耐えた家も破壊された家も、いずれも真摯に理解され語られるべき物語があるのです。

痛みの光景は希望の光景でもあります。被災者への支援活動にたずさわる人々は、人種、文化、宗教、性別、信条が何であれ神様の使者であり、神様は彼らを愛・思いやり・いたわりの果実を共に分かちあうために用いてくださっているのです。

日立の地に足を踏み入れてからこの感想を書いている今に至る間に、次第に明確になってきたことがあります。それは、私たちが通常考えている言語、人種、文化、宗教など、これらの数限りない「障壁」は、実はそれら自体は「障壁」ではないということに気付かされました。それらが私たちの生活において「障壁」となるのは、私たちの信仰の狭さによるのです。私たちの神様への強い信仰とその信仰に真に忠実であることが一致の鍵となります。もしも私たちが神様への信仰に忠実で全てを神の御手に委ねるならば、これらの「障壁」はもはや「壁」であることをやめ、そこからは愛によって美しい心と手が成長していくことでしょう。
                                                                   (2013年6月4日)

  “From Walls to Hands” by Prof. Jean Cuanan Nalam
              Silliman University Divinity School


*1昨年12月にミンダナオ島東部を直撃したフィリピン台風24号では死者・行方不明1500人、避難者13万人の被害が発生した。



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2013年5月、フィリピンのネグロス島にあるシリマン大学神学部の教授、神学生などの一行4名が日本聖書神学校の企画した研修のため来日され、19日からの2日間は日立教会を訪問してくださいました。今回は、シリマン大学と日本聖書神学校との交換プログラムとして選抜・派遣された方々で、るつ記記念基金の直接の奨学生ではありませんでしたが、このような機会を通してるつ記記念基金の思いを共有するとともに相互理解を深めることができました。
 日立教会では、礼拝や歓迎会での交流をはじめ、東日本大震災被災地にある復興途上の北茨城市の旅館「月浜の湯」や津波により地域全体が今なお壊滅状態にある福島県いわき市薄磯地区で支援活動を行うNPO法人・グローバルミッションジャパン、同じく被災して会堂を失い先頃泉市の地に献堂式を終えた福島第1聖書バプテスト教会などへ案内し、復興の現状と取り組む人々の信仰と働きを学び祈りました。

 参加されたクアナン教授からこの日立教会での研修に対するメッセージを頂きましたので紹介します。